原題：Birdman or The Unexpected Virtue of Ignorance本作は他のアカデミー作品賞受賞作と趣が類似していてちょっと難解。単純な娯楽作品とは異なるのでスッと理解できる作風ではありませんので少し解説する。先ず、長い題名だが、あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡　とは？ニューヨーク・タイムズの演劇批評家タビサ・ディッキンソンの批評文の見出し・題名。彼女の批評1つで舞台の打ち切りが決まってしまうほどの発言力を持っている。バーでのシーンで、タビサは「舞台を見ないで貶す！」と息巻いていたが、侮辱された腹いせに「舞台を見て貶す！」という本当の意味での酷評をしてやろうと思い、初日舞台を観賞したのだが、鬼気迫る様子や周囲の空気から高い評価をせざるを得なくなります。それでも彼女のチンケなプライドのためイヤミ交じりの評文となり、その見出しが本作の副題でもある「無知がもたらす予期せぬ奇跡」なのです。「確かにすごかったし良かったけど無知で解ってないからこそ出来ただけじゃんか！」と言うワケです。-------------------------------　この後のレビューはネタばれ　鑑賞前に読まない事をお勧めします。コミックヒーロー実写映画「バードマン」に主演し嘗て人気を博した俳優リーガンが挑戦するのは、舞台劇『愛について語る時に我々の語ること』単なるアクションスターが手がけるには非常に難しい作品でテーマは自己破壊。イヤミでも褒められて話題になった舞台にプロデューサーは早くもロングランを皮算用して喜んでいます。しかし初日舞台で見せたのは演技ではなく本物の銃を使う本物の自己破壊だった訳で、これは一回こっきり迫真の舞台で、次からは鬼気迫るリアルさなどももう出来ない訳です。それに、別れた妻や娘と愛ある抱擁するリーガンには『愛について語る時に我々の語ること』の登場人物とはかけ離れた人物になってしまっているので、この事からも演技したとしても鬼気迫るような観客に訴えかける情念を込めるのももう無理です。それでも、影響力のある批評家の高評価とツイッターYouTubeなどで話題になっているので、この舞台は成功し、嘗てのアクションヒーローは、高い演技力の役者としてこれから羽ばたいていけるでしょう。頭を掠め、鼻を打ち抜いた意味打ち抜いた鼻は、整形後、高くもなく鋭くもなく、程ほどに整形されています。高慢さやプライドを自らへし折り、単なる元アクションヒーローの映画スターで、単なる父親・夫としてのプライド程度へ修正できた事を表しています。もう傲慢ではなくなったリーガンは、超能力などなくなり、サイコネシスなど使える妄想やバードマンの声の幻聴もなくなり健全な精神になっているでしょう。身も心もバードマンになったリーガンは病室の窓から飛翔して見せ、それを娘が笑顔で見つめます。これは、娘にとって本物のヒーローとなって飛翔しているという意味であり、実際に滑空している姿の映像は一切ありません。人は愛されることを求めているが、若く実力が発揮できる内は特に男性はその必要性に気付かないので、実力がある人ほど利己的でクールな生き方をしている。しかしそんな傲慢な生き方をしていれば、老いれば若かかりし頃と比べれば憐れな男に落ちぶれ、精神は崩壊するのです。「凄い俺が評価されないのは周りがバカばかりで世の中がクソだからだ」という思考を助長させ、落ちぶれた男は不甲斐ない状況へ更に陥っていきます。そして自らの頭に当て拳銃の引き金を引くまでに至ってしまう。過去の傲慢な自分を葬り去ることが出来なければもうお終いということです。過去の傲慢な自分と決別できなければ、再生はないのです。

なんていうか、話の本筋は悲劇的かつシリアスな重みを抱えている筈なのに登場人物の倫理観がもう色々アレ過ぎて兎に角開幕から何度も笑わされてしまいました。異常なテンポで繰り出されるマジかよお前と言うレベルでネジが飛んだ会話が飛び出しまくりです。会話だけで笑わせる映画は本当、単純に「凄い」と思ってしまうんです。この映画の場合特にそれが顕著でした。悲壮感を痛烈に表現しながらも、笑わせに来る作風は見事の一言。何の予備知識もなく鑑賞出来て本当に良かったです。権威に同意するのはあまり好きではないのですが、賞を取る映画はやはり何か違うオーラを持っていますね。

とても素晴らしい実践だと思います。演劇教育に関心のある方にはおすすめできます。

　何と言っても楽しい！　読むと楽しい授業や研修が目の前に広がってきます。「かまきりりゅうじ」になって、ファンからヒューヒュー言われながら発するセリフ、その時の気持ち。想像するだけでもワクワク。やってみたい気持ちになります。コロナでリアルな空間や物を共有して学ぶことが減らされてしまいましたが、だからこそ、その学びをぐっと濃密なものにしたい、と思っていた私には、本当に大きなヒントをもらえた本でした。　写真も素晴らしい！　表紙を見て、「誰が撮影したんだろう！」とカメラマンの平井さんのページから開くくらいのインパクトでした。「スーホになって朝日を見る」という説明が本文（p.67）に記されていますが、説明がなくても、この子が物語の世界にひたっていること、眼前に物語の景色が広がっていることが伝わってきます。本文にもたくさんの写真が載っていて、それがまた、本当にいい場面をとらえていて、写真を見ると、大事なポイントが一層分かります。　9ページの図で、本の構造がわかるのもありがたい。私は、つい細部に入り込んでしまって、全体をつかむのが苦手なのですが、こうやって示してあると助かります。「やってみたいな」「他の実践や理論も知りたい」という人には、Q＆Aやブックガイドもあるので、とってもお得です。　正直、今まで「意欲的」とか「主体的・対話的で深い学び」って、うさんくさくて好きになれない（特に「主体的」「対話的」のところ）と思っていましたが、どうとらえ直すとよいのかというヒントをもらいました。今までの研修や学校の「マネジメント」はどうもちょっと…という人にもおすすめです。

自分が知らない世界にワクワクしながら、そして喜怒哀楽さまざまな感情を経験しながら学ぶこと。本来「学ぶ」ってそういうことなんじゃないかと思うのですが、そうした学びを「演劇」で取り戻す。でも、どうやって？実践事例も豊富で、まさにワクワクしながら読みました。学校ではたしかに「感情」が死んでしまっていることも多い。そうした「感情」を学校に蘇らせるだけではなく、さまざまな場所でこうした「学び」が今、必要なんだろうと感じます。

中高の授業で演劇的手法を用いています。実際にその人になってみることによって、見えてくること、気づきがたくさんあります。目からウロコの授業となります！

「わからない」のに「できる」（できてしまう）経験…！それはとても豊かなものになるだろうな。まず「なってみる」から始まるこの本は、革新的な内容に満ちている。でも目指すところはいたってシンプルだ。美濃山小学校の校内研修をリードしてきた藤原先生は「おわりに」の中で演劇的手法が残ることを目指すのではないと、述べる。え？この本の中で紹介されているのは、国語や道徳などの教材を、多様な演劇的手法を用いて生き生きとした学びの実践へと変えていく素敵な事例たちだ。子どもの表情がプロの写真家による美しい写真でたくさん載せられている。学校づくり、教員どうしをつなぐのみならず、研究発表の手法までドラマチックに変わっていく。すごい。それが演劇的手法を残し広めるためではない、とはどういうことだろうか。藤原先生の言葉は、こう続く。手法の継承を目指せば、いつしか形骸化した実践になりかねません。そうではなく「やったことのないことを、やってみよう」という文化が残ればよいのだ、と。なるほど。面白くて具体的だけど、「なってみる」は単なる手法ではなくて、変革の中枢にある思想でもあるんだな。この本の中で、「アクティブ・ラーニングとは何か」を書かれた渡部淳先生が、今年になってご逝去されたことを知る。私自身が「今、生きていること」の意味まで考えずにいられなかった。